2021年2月開催 第9回日本酒プロコース卒業試験 筆記試験問題と解答
問Ⅰ:日本酒の原料、醸造、後処理などに関する設問
1、米のデンプンを構成しているデンプンの内、アミロースの比率と、それをつくり出す合成酵素名を答えよ。また、イネの登熟期の気候で、軟質で溶けやすい性質へ傾斜するには、どのような気候条件が必要となるか。またその時、どのようなデンプン合成酵素の活性が強くなるか答えよ。
・アミロースの比率→20~25%、酵素名→デンプン粒合成酵素(GBSS)
・気候条件→登熟期以降は冷涼な気候であること。可溶性デンプン合成酵素(SSS)の活性が強くなる。
2、酵素について、「タンパク質の一種」「触媒反応」という文字を入れて説明せよ。
・酵素はタンパク質の一種で、触媒反応を持つ特性がある。触媒反応とは、温度やpHなどの条件を与えることにより勝手に反応が進む事であり、分解や合成などを行いながら生成する成分を小さくしたり大きくしたりして、別の物質に変換できる機能を持つ側面がある。
3、酵素力価について説明せよ。
・力価とは触媒反応の強弱を表す単位の一つで、反応の速度に影響する。
4、吟醸づくりに使用する酵母の特徴について、知り得る内容を解答せよ。
・低温で良く発酵し、目的とするフルーティーな香気成分を多く生成する。中にはセルレニン耐性酵母やトリフルオロロイシン耐性からプレグネノロン耐性を持つ酵母などがあり、フルーツ香を増大させる遺伝子を持つ酵母が開発されている。
5、日本酒醸造時のアミノ酸の種類は何種あるか答えよ。
・20種
6、下記は脂肪酸合成経路について解説したものだが、空欄を埋めて文章を完成させよ。
【 A 】はグルコースを体内に取り込むと、【 B 】の生成を経由してアセチルCoAを生成し、更にアセチルCoAカルボキシラーゼにより【 C 】を合成します。この2つの成分、アセチルCoAと【 C 】から脂肪酸合成酵素である【 D 】により脂肪酸合成が開始され、炭素鎖16コの【 E 】を生成するまで続き、最終的に脂肪酸である【 F 】となります。
・A→酵母、B→ピルビン酸、C→マロニルCoA、D→脂肪酸合成酵素(FAS)、E→パルミチルCoA、F→パルミチン酸
7、下記は、カプロン酸エチルの生成経路について述べた文面だが、空欄に該当する用語を入れて文章を完成させよ。
酵母は脂肪酸合成経路において、炭素鎖6つの補酵素Aである【 G 】を脂肪酸合成途中に生成するが、その際、【 G 】を【 H 】という酵素でカプロン酸を合成し、そのカプロン酸は【 I 】という酵素でエタノールと反応させ、カプロン酸エチルを生成する反応が進む。またもう一方で【 G 】と【 J 】を【 K 】という酵素で反応させ、カプロン酸エチルを合成する2通りの生成経路がある。
・G→カプロイルCoA、H→アシルCoAハイドロラーゼ、I→エステラーゼ、J→エタノール、K→アルコール・アシル・トランスフェラーゼ(AACTase)
8、酵母の体内で脂肪酸合成が行われる時、生成される脂肪酸の種類の中で、アルコール耐性の一番高い脂肪酸を答えよ。
・パルミチン酸
9、セルレニン耐性酵母で使用される「セルレニン」とは何か、真菌類名称を挙げて説明せよ。
・セルレニンとは、不完全菌類に属する「セファロスポリウム・カエルレウス」が生産する抗生物質。これは動植物の中で脂肪酸合成を阻害する唯一の特徴を持つ。
10、ある物質が過剰に生産されると、その最終的な生産物が最初の反応を抑えるように働くことを何というか。
・フィードバック制御
11、活性炭ろ過を行った酒について、活性炭に吸着されない代表的な成分を3つ答えよ。
・乳酸、エタノール、高級アルコール、糖類、アミノ酸類(一部のアミノ酸を除く)など。
12、ジアセチルはどのような経路で生成されるか説明せよ。
・醪の発酵が止まっていない状態、即ちピルビン酸の生成が終わっていない状態で、搾りを掛けたり、搾る前にアル添したりすることで生成される。
13、メイラード反応について、「糖」「アミノ酸」「熱」という言葉を挙げて説明せよ。
・糖類とアミノ酸の両方に熱を加えることによって起こる現象で、これらは非酵素的反応によって進行する。
14、ストレッカー分解について解説せよ。
・メイラード反応の副反応で起こり、アルデヒドやピラジンなどを生成する。
15、通称DMTSと呼ばれる成分は、主にどのような酒に見られるか説明せよ。
・メイラード反応が進んだ酒質、高温にさらされた酒、低温以外の長期熟成した酒などに見られる成分。
16、酵母が生成する有機酸の生成経路において、生成される酸を解答用紙に従い解答せよ。
・ピルビン酸→(乳酸)
・ピルビン酸→クエン酸回路→(リンゴ酸)、(コハク酸)、(クエン酸)
・ピルビン酸→アセチルCoA→(酢酸)
17、精密濾過について、知り得ることを解答欄に解答せよ。
・膜フィルターの細孔径が0.2~3μmの範囲の濾過をいう。濾紙などで濾過できないコロイド粒子を分離・精製できる。特に酵母、火落ち菌、細菌類も通過できないため、酒の風味を残して微生物の濾過ができる点が大きい。
問Ⅱ:日本酒の表現や特徴に関する設問
18、香りの表現で「青々しい」「フレッシュな」「若々しい」などと表現する場合、それにふさわしい成分を1つ解答せよ。
・アセトアルデヒド
19、味わいの表現で「力強い」「しっかりとした」「刺激的な余韻」などと表現する場合、それらを満たす成分を1つ解答せよ。
・アルコール(エタノール)
20、10年程度の長期低温貯蔵をした大吟醸酒の特徴を、香りと味わいの点からそれぞれ一つずつ挙げよ。
・香気は多少減少傾向にあるが、フルーティーさは維持され若干オイリーさが増加。
・味わいは苦味が若干増加するが、テクスチャーの印象が丸みを帯び刺激が減少し、全体的にまろやかさが増加する。
問Ⅲ:酒質バランスに関する設問
21、日本酒の外観が、次の特徴「多めの発泡がある」「泡がやや大きめ」「グリーンのトーンがやや強い」「メラノイジンはほぼ無い」「スパークリングタイプではない」とした場合、この酒がつくられたプロセスの可能性を箇条書きに5つ挙げよ。
・自動圧搾機での搾りをした。
・搾ってから素早く瓶詰めした。
・アルコール度が高い。
・生原酒である。
・アミノ酸が少ない。
・瓶内二次発酵はしていない。などの可能性が考えられる。
22、香りにアセトアルデヒドが強く感じられ、色調がやや黄色掛かっている場合、どのような事が考えられるか解答せよ。
・生原酒でアミノ酸度が高い可能性が考えられ、瓶詰からの時間経過が短い。
23、Alc16度、日本酒度-2、酸度1.4、アミノ酸度0.9、加水の純米酒、プレートヒーター火入れ1回、袋吊り、低温タンク貯蔵半年、酵母K-9という条件である場合、その酒質についての印象やバランスを解説せよ。
・色はわずかに淡い緑黄色。メイラード反応はわずかに感じられる程度。泡はほぼない。
・香気はフルーティーで酢イソベースの香気に加え、カプロン酸エチルもほんのり感じフルーティー。アセトアルデヒドも適度にあり、若々しさはほんのり感じる程度。酸は程良くなじんでいて、清涼感はバランス良い。イソアミルなどのオイリーさは弱め。メイラード反応系でのソトロン香は少ない。
・味わいのアタックは甘味のふくらみしっかりめで舌触りは滑らかになる。酸は程良くなじんでいてソフトさと適度な軽さがバランス良く、苦味はフィニッシュに続くも後口にはそれほど気にならない程度の余韻。アミノ酸が少ない為、スッキリ軽快でキレの良いアフターとなると思われる。